「飽食なのに『低栄養』?」 |
医学部で、当時は誰もやらなかった栄養学をやりました。病気を治すのも医学の大きな役目で大変価値があるけれど、本当は病気にならないようにするのがもっと優れた医学ではないかと思い、食事の研究を始めました。最初は、薬を使わず、食事療法だけで病気を治そうと、大学病院の外来の一角に食事相談室を作りました。その後、食生活が糖尿病、動脈硬化、高血圧等の原因になり得ると分かって患者さんが増え、30年間で3万人位に指導しました。薬が減って、食事で病気を予防していくということは、間違いではなかったと確信しました。 |
 |
《 「人類というのは、どんな特徴を持っているか?」 》
人間に進化したお猿さんは約700万年前アフリカで誕生しました。華奢(きゃしゃ)で腕力のない人間が、なぜ他の動物の頂点に立てたのか?二足歩行となり大脳が安定、発達して思考も発展し、好奇心と創造性を持ち、雑食し、地上のあらゆる所に生存できるようになっていきました。最大のライバルがネアンデルタール人で、腕力が強くヨーロッパを支配しますが、偏食だった為、食べ物が無くなり絶滅し、ホモサピエンスが生き残ったのです。
草食動物はみんな消化管にいる微生物と共存していますが、人間の腸内細菌は大腸のみで、小腸にはほとんどなく、胃や食道には微生物はいません。栄養という観点からいうと、人間は進化した動物ではなく、雑食により必要な栄養素(35〜40くらい)を全部とビタミン13種類、ミネラル15種類くらい摂らなければいけない。この中でたった一つが欠乏しても、人は死ぬというのが栄養素です。
すべての栄養素を一つの食品で供給してくれる夢のような食べ物はありません。一番近い食べ物は牛乳ですが、完璧ではありません。牛乳には鉄もビタミンCも食物繊維もありません。栄養を考えて食物を選択するという宿命を人類だけが背負いました。 |
《 栄養学が発展 》 |
フランスの学者でラボアジェ(欧州ではニュートンと同じくらい有名な人)が、「人は食べ物を食べ、そして酸素の存在の下でそれを燃焼し、食べ物からエネルギーを得る」と人類最初に提言しましたが、「人の命は神が与えたもので、食べ物で人の命が保証されるわけがない。神への冒涜だ」と宗教裁判でギロチンにかけられてしまいます。栄養学はフランスで出発しましたが発展せず、ドイツで三大栄養素が発見されています。 |
《 世界で初めてビタミンを発見したが… 》 |
鈴木梅太郎さんは慈恵医科大学を作った初代委員長で、世界で初めてビタミンを見つけた人です。「脚気の原因はビタミン不足である。白米ばかり与えたニワトリは神経症状をおこすが、米糠を与えたら脚気が治った」米糠を抽出し、ビタミンB1を発見します。三大栄養素以外に、微量な栄養素が必要だと人類で最初に見つけたのですが解釈を間違え、ビタミンB1を脚気の薬だと思ってしまいました。デンマークの若い学者が「新しい栄養素ではない。アミンを含んだバイタル…ビタミンだ!」と論文を書いてノーベル賞を貰います。 |
《 牛乳は牛の栄養?人間のためのタンパク質とは? 》 |
いろいろな食品のタンパク質は分子量が大きいからそのままでは、腸管を通りません。アミノ酸まで分解され吸収されます。20種のアミノ酸になれば、魚、肉、牛乳と由来が何であれ、どれもアミノ酸です。
「牛のミルクは牛の栄養だから人間にはだめだ」と牛乳バッシングでよく出てきます。人間のためのタンパク質なら、人肉を食べなくてはいけなくなります。こんないい加減な論理に、何故、惑わされるのか?そう思いませんか? |
《 食べ物が確実に健康に関与する 》 |
人の健康状態というのは遺伝的に体質や家系があるが、遺伝体質を持ちながら、食事を変えたり、運動をすれば、その遺伝が発現しないことが分かってきました。ある栄養素の食事の取り方で薬が効かなくなったり、逆に薬がよく効くようになったりという事も分かってきました。細胞を維持するにも役立っていることも分かってきました。食べ物の中で、健康に関与している生理活性物質は約5000種類位あり、500種類が確実に健康に関与している事も分かってきましたが、知り得た栄養素は40くらいしかありません。 |
《 学校給食は栄養改善の成功例 》 |
戦後の栄養改善のデータです。三食中たった一食だけを改善し、子どもの栄養状態が良くなるのかどうか?という実験です。スキムミルクと小麦粉をアメリカから輸入し、実験的に学校給食を行いました。日本は学校給食制度により、一挙に日本の子どもに配ることができ、栄養状態が著しく改善されました。栄養改善のサクセス、成功例として世界に打信されました。
輸入した食糧を、未来のある子どもたちに配り、その後、子どもたちは高度経済成長が起こったときの優秀な労働力になりました。併せて、栄養教育を徹底的にやりました。栄養が良くなって、寿命も延びてきました。牛乳、乳製品が多くなり、タンパク質も脂肪も増え、炭水化物と食塩は減少しました。日本中の健康状態が改善され、今世界一の長寿国になっています。 |
《 世界一の長寿国となった日本 》 |
なぜ日本が世界一の長寿国になれたのでしょうか?
日本には長生きする伝統的な食品もなく、そもそも貧しくて沢山の欠乏症にさいなまれ、50歳までしか生きられなかったのです。世界一の長寿国になれたのは、真面目に栄養学を信じて、食生活を豊かにし、栄養改善運動を行い、子どもたちに徹底した教育をしたためです。その努力による結果で、昔から良かったわけではないのです。
ただ、日本はあまりにも欧米化しすぎたので、生活習慣病が出ました。この数年間、我々は生活習慣病対策を必死の思いでやったわけです。
ここで一つ研究をご紹介します。この人たち(3234人)ですが、糖尿病になりかかっている人たちです。3つのグループに分け、食生活と運動をやった生活習慣を改善したグループ、早めに薬を飲んだグループ、何もやらないで放置されたグループ、この3群に分けて4年間観察しました。
放置されたグループの40%近い人が糖尿病になりました。メタボルミンという薬を飲んだら30%ぐらいまで抑えられました。でも、最も予防効果があったのは、生活習慣を改善したグループでした。
この実験は大切な二つのことをいっています。生活習慣を確実に改善すれば、病気は半分に減らせるということです。もう一つ。予防においては、薬よりも生活習慣の改善の方が、効果があるということです。
|
《 牛乳は『メタボを防ぎ』、『生活習慣病を予防』する 》 |
牛乳乳製品が肥満やメタボに関係していると言う人がまだいます。メタアナリシスという統計的手法としては最も権威のある方法でやった実験があります。@牛乳をたくさん飲んでいる人Aほどほどに飲んでいる人Bほどほどに飲んでない人C全く飲んでない人の4つのグループに分けて、どのくらい病気が発症するかです。牛乳の摂取量が多くなればなるほど、メタボの発症率は優位に低下していました。世間で言われている、「牛乳を飲むと肥満になる」「メタボになる」というのは逆で、メタボを防いでいたというのが分かってきました。牛乳を飲むグループほどおなかの周りも細いし、血圧、中性脂肪も低い、牛乳の摂取によって生活習慣病の危険因子は高くなるどころか低下するということが最近の常識になってきています。
かつては、高血圧は食塩、ナトリウムが悪い、「減塩」「減塩」と言ったのですが、ナトリウム(Na)そのものよりカリウム(K)とのNa/K
比が大事だということがわかってきました。Na/K 比が高くなればなるほど、総死亡率も高くなるし、循環器疾患も高く、脳卒中の死亡率の比率も高くなっています。
Na/K 比が、牛乳を毎日飲めば飲むほど低くなっていくこともわかってきました。なぜかというと、牛乳にカリウムが多く含まれるからです。ナトリウムはほとんどありません。
そこで世界のいろんな心血管疾患(心臓・血管など循環器における疾患)と牛乳摂取量の関係をみますと、例えば2006年には、乳製品の摂取量が多いと脳卒中での死亡が少ないと発表されました。これは日本のスタディで、2008年にも同じようなことが発表されています。そして、牛乳乳製品の摂取量が多いと狭心症とか心筋梗塞の死亡率が低いのです。脳卒中は、昔は日本人には多かったのですが、牛乳を飲むようになって減少してきたという事です。
これは我々がやった実験ですが、朝野菜ジュースを飲むのと牛乳を飲むのとを比較すると、朝牛乳を飲んだほうが食後の血糖値が上がりにくいのです。だから牛乳を飲むと糖尿病になるどころか、糖尿病を抑制できるという事もわかってきました。 |
《 日本人は伝統的な和食+欧米食+牛乳で長寿になった 》 |
伝統的な和食が健康にいいという事ではなく、日本人が健康になったのは伝統的な和食に欧米、中華食が適度にミックスされ、完全な欧米食にはならなかった事です。諸外国の食材を導入し、栄養改善運動を積極的に行った結果であり、私はそこに牛乳乳製品の役割が大きいのではないかと思います。 |
《 『やせ・低栄養』で介護の割合が高くなる! 》 |
高齢化社会になった時の問題をお話ししましょう。介護の原因になっているのは生活習慣病が約3割で、あとは衰弱、骨折、転倒が3割、あと認知症と関節痛が2割ずつぐらいです。つまりほとんどが栄養の問題になっているわけです。今問題になっているのは、衰弱、骨折、転倒です。これは低栄養の問題です。そこで国は新しい方法を考えました。
介護施設にいる高齢者の栄養状態を見ると、栄養状態が良好という人は35%しかいません。13%の人はほぼ低栄養状態。低栄養になる恐れがある人は半分ぐらいいらっしゃる。タンパク質の栄養状態が、良いか悪いかというのはアルブミンで測ります。アルブミンという検査値、3.5という数値を覚えてください。3.5以下になってくると、タンパク質の栄養状態が悪いと判断します。アルブミンが3.8以下になると、介護認定の割合が非常に高くなります。
今まで、私たちは生活習慣病を予防するために、「腹8分目に食べろ」「過食をやめろ」「太るな、痩せろ」と話をしてきたのです。ところが亡くなる時の体重を見たときに、実は痩せて死んでいるという事がわかりました。大体老衰で死んでいく時は痩せていきます。だから、痩せを防いでいくというのが、もっと大事なことです。これをフレイル(要介護状態に至る前段階)といいます。
体重の減少、疲労感、日常生活活動が減少、身体能力の衰弱、そして握力が低下し、この内3つがあればフレイルと言います。
年を取ったら太めの方がいい、やせ過ぎてはだめですよということです。「お肉を止めよ」とか、「乳製品を止めよ」と言う人がいますが、タンパク質の摂取量が減れば減るほど筋肉量が減少します。だから年をとってもタンパク質はしっかり食べていかなければいけません。牛乳は優秀なタンパク質源です。 |
《 日本人は伝統的な和食+欧米食+牛乳で長寿になった 》 |
伝統的な和食が健康にいいという事ではなく、日本人が健康になったのは伝統的な和食に欧米、中華食が適度にミックスされ、完全な欧米食にはならなかった事です。諸外国の食材を導入し、栄養改善運動を積極的に行った結果であり、私はそこに牛乳乳製品の役割が大きいのではないかと思います。 |
《 メタボ対策からのギアチェンジが必要! 》 |
今、お年寄りになぜ低栄養が増え始めてきたかというと、ちょうどメタボ対策の洗礼を受けた人たちが年寄りになり始めているからです。つぶさに頭の中で「食べてはいけない」と思い、フレイルを助長してしまうことになります。低栄養は介護を増やしてしまうので、早めにメタボ対策からギアチェンジしなければいけないという事が出てきました。
牛乳は、低栄養には栄養補給、過剰栄養には生活習慣病のリスクを低減するのに有効であって、むしろ飲み続ける必要があるのではないかと思います。 |
《 若い女性のやせは赤ちゃんの将来の健康に影響する 》 |
次に問題になっているのは若い女性のやせです。これは彼女たちの問題ではなくて、赤ちゃんの問題となってきているのです。世代を超えてしまうから大きな問題ですね。
子どもの頃の栄養状態は一生影響すると昔から言われています。だから最初の1000日、妊娠中の10ケ月から2歳の誕生日までが大事なのです。大事なポイントは生まれてからの授乳期だけではなくて、胎児からの栄養、つまりお母さんの栄養状態もきちんとしないとだめです。お母さんがダイエットをやって、栄養状態が悪くなると胎児は飢餓状態の中で成長していくわけです。飢餓状態に適応した体質が出来てくると、普通の赤ちゃん以上に太りやすくなってきます。少ないカロリーで、なんとか生きていけるような体質を持った子どもは将来生活習慣病になりやすい事が分かります。今、日本の赤ちゃんは、先進国の中で一番小さな赤ちゃんです。 |
《 『良好な健康状態は人間の幸福の基盤になる』 》 |
最後になりましたが、去年2014『世界栄養レポート』というのが報告されました。大事なキーワードですが「人間の栄養源は人間の健康の基盤になる」と書いてあるのですが、健康だけでなく、「幸福の基盤になる」と書いてあるのです。
出生前から乳幼児にかけて良好な栄養状態を保てば、脳の機能障害を防ぎ免疫システムを強化し、死亡率を減少させ、学習能力を高めるということが分かってきました。母親になれば栄養状態の良い子どもを出産でき、大人になれば生産性を向上させ、高額な賃金を得られます。中高年では、慢性疾患や介護の予防にもなります。逆に良好な栄養状態が保たれなければ人間の命・生活は崩れ、全ては砂上の楼閣となります。残念ながら、世界にはそういう国が多く存在しているのです。
近年これらが科学の進歩によって科学的に検証されました。私の話はこれで終わりにしたいと思います。 |
▲上に戻る |
▲フェスタトップに戻る
|
未来ネットHOME |