『よりよい牛乳を求めて』 |
2013 11/5
名古屋市東生涯学習センター
大山(だいせん)乳業農業協同組合組合長
幅田信一郎さん
【プロフィール】
62歳。大学農学部卒業後、実家の農業を継ぎ酪農を始め、以来酪農一筋に24年。大山乳業農業協同組合常務理事・専務理事を経て平成12年から組合長を務める。 |
大山乳業のマスコットキャラクター「カウイくん」と
講演中の幅田さん |
《 鳥取県のこと 》
非常に小さな県で、面積で言えば全国41番目、人口は最下位の58万人弱です。
山、海、川と自然に恵まれ色々な食べ物を生産しています。20世紀梨や松葉ガニが有名。 |
《 大山乳業農業組合について 》 |
|
酪農家が出資して作った酪農専門農協です。酪農家が乳を搾ってメーカーに売るという事が一般的な酪農協なのですが、我々は生産者の搾った乳を自分達で処理して販売して行こうと取組んできました。戦後すぐ、昭和21年に立ち上げた当時は県内に多くの組合がありましたが統合が進み、現在大山乳業農業組合が、鳥取県に一つです。
シンボルマークの「白バラ」には、正直、純粋、そして「あなたにふさわしい」という意味が込められています。 戦後たくさんの農家が牛を飼うようになり、米や梨を作りながら牛を飼う形状の農家が非常に多かったので、一時4,000戸の酪農家がいましたが、その後減り今では161戸(去年12月の数字)迄減って今年153戸で、1万頭余りの牛を飼っています。経産牛6500頭、子牛3700頭弱。年間生産量は6万トン弱です。生乳が工場に集まって来て, 460人位の職員で処理しています。 |
工場ではバターや粉乳にして、菓子(ロールケーキ、シュークリーム、クリスマスケーキ)も作っていて、1年間に134億円位販売しています。
鳥取県内での消費は2割位、8割は県外で、主に京阪神(大阪、京都、神戸)が中心。それ以外には山陽、九州、四国など、西日本に広く販売をしています。今回こちらの方にも取引が始まって、名古屋、東海地方にも広がるといいなーと思っています。 |
《 自慢できる経営内容 》 |
組合として力を入れている点は2つ。まず、組合の理念は「白の一滴、心の一滴」酪農家の心を食卓に、酪農家の思いを消費者の皆さんに届けようというものです。その中で美味しいものでなければならない、美味しさの元は生産者が搾った原乳の品質であるという事で、乳質には非常に力を入れてきました。搾った段階の生乳の品質を大きく分けると、成分的品質と衛生的な品質に分けられます。成分の方でも乳脂肪分(3.5〜3.8位% 年平均3.91%)と無脂乳固形分(8.3〜8.5% 年平均8.8%)と、平均的な数値よりは多いかと思います。
それから、衛生的な品質では細菌数と体細胞数とあります。細菌数は清潔度合、搾る時の機械の洗浄とかしっかりしないと細菌数が多くなる。本来400万以上あると取引出来ないのですが、現在の酪農家の皆さんが出荷している乳は非常に良くなっていて9千個。1万個を割っています。もう1つ体細胞数と言うのがあり、これは生理的な物なので問題は無いのですが、牛が乳腺炎にかかると、菌をやっつける為に白血球が増え体細胞数が増えてくる。体細胞ゼロと言うのは難しいですが、30万個以下が望ましい。病気の牛がいると50万個位になってしまう。それを組合では色々努力して昨年は16万3千個という数値でした。体細胞が多いと牛乳の味にえぐみがあり、塩辛く感じられます。
また、品質を上げる為にもう1つ、国の事業の乳用牛群検定事業を利用しています。酪農家は平均的で62〜3頭(親牛で40頭余り)飼っていて1頭ごとに牛の健康状況を把握する事は難しいということで、牛乳のサンプルを取って調べるのが牛群検定事業です。1ヶ月に1回検定員立会いで検査し、悪ければ治療したり淘汰したりするのですが、結構面倒なので農家の方は加入するのを嫌がります。が、今、牛の96%、農家戸数の8割位が加入しています。牛群検定事業の加入率は全国で一番高い。特に体細胞数16万個というのは、他の組合ではマネができない。体細胞だけは自慢できます。 |
《 循環型農業の実践 》
|
乳牛というのは、草を食べて乳に変える、胃袋が4つある反芻動物です。第1胃というのが非常に大きくて、ドラム缶1本ぐらいの容積ですが、微生物が非常にたくさんおり、食べた草を発酵して栄養分を吸収します。更に反芻しながら第2胃、第3胃と送ります。草をやらずに穀類だけで牛を育てますと発酵が早く進みすぎて胃の中が酸性に傾きすぐ病気になってしまいます。草が本当に牛にとっては大きな栄養源になる訳です。ただ残念ながら酪農の規模拡大が進んでくる中で、草を作る労力が厳しくなってきて、穀類はもちろん草も輸入物が中心になり、農場は餌を外から仕入れて乳を搾るだけというある意味加工型の酪農が多くなってきておりますが、それではだめなんですね。本来やっぱり、特に草は自分たちで作って与える必要があると思います。
牛の糞尿を発酵させて良質な堆肥として土に還していくと、土が非常に良くなる。いい土だといい草ができる。で、牛と土と草の循環が酪農の本来の姿です。
全国の中では鳥取県は草の生産もかなり多いですが、非常に労力がかかるので、草の栽培を請け負って大型機械で収穫をして、酪農家の皆さんに供給するというコントラクターという組織が県内に今4つほどあります。主には飼料用のトウモロコシを葉っぱ、茎、実ごと、牧草も小さく1cm位に裁断して、サイレージにして1年間確保する。最近では飼料用の稲も一緒に利用する取組みをしています。非常に大きな力になっており、今の4 つから、あと2つ、3つ作っていきたいなと思っております。
【 酪農の厳しい状況 】 この10年間で4割ぐらい生産者が減ってきております。毎年5%〜6%、全国的にも鳥取県でも減ってきております。ただ以前は残った人がカバーして乳量維持出来ていたのが、どうも最近はカバーが出来ず生産量もだんだん減る傾向になってきています。
今その要因として、穀類を中心に餌が高騰しており、10年くらい前と比べ3倍くらい。生産コストの半分は餌なんで、非常に収益を悪くしております。コストが上がっても生産者の乳価が上がれば良いが、140円、150円の安い牛乳もあってなかなか上げられない。
以前は酪農というと農業の中で後継者が非常に多い部門だった。ところが最近の若い方は、週休2日が当たり前の時代に1年中休みの無い酪農に対して魅力を感じていない。いくら儲けが良くてもそういう職業には就きたくないというのが酪農家の息子さん、娘さんでもあり、非常に後継者も不足する状況になってきております。そういう中で生産基盤も非常に急激に弱体化してきております。
それに加えてTPPの問題が浮上してきております。バターとか粉乳は高い関税、300%位の関税で守られていた訳ですが、これが関税0と言うような事になると競争力を失い、脱脂粉乳なりバターが安く入ってくれば日本の酪農は非常に大きな影響を受ける。都府県は0になるというような農林水産省によるショッキングな試算もある。そこまではいかないとは思いますが、収益が悪くなっている中で、酪農家の皆さん非常に将来不安と言う事で意欲が無いという状況に立ち至っているという訳です。 |
《 ノンホモ牛乳の取り組み 》 |
日本の牛乳の殆どはUHT超高温殺菌の牛乳で、言葉としてはノンホモとかパスチャライズについては知っておった訳ですけど、あんまり深く考えないで、我々には関係ないなーくらいにしか思ってなかったんです。
今年4月未来ネットさんから突然依頼を受けて、私ども乳業メーカーですので、ある程度牛乳の知識は持っていたつもりなんですが、本来の牛乳の知識が不足していたのではないかと反省させられました。改めてノンホモパスチャライズを勉強しなおさなくてはいかんなあと思いました。
いやあ…これはなかなか大変だって事で、蔵王さんの方へ視察に行ったり、あるいは以前からノンホモに取り組んでいる乳業メーカーにも行って色々話を聞いて改めて勉強をさせてもらいました。なるほどそうだなーという風につくづく思いましてね、やっぱり私も酪農家なんで、家で搾ったままの乳を飲んで美味しいなーと思っておりましたが、本来そういうのが牛乳の味。なるべく搾ったままに近い形でと言えば、ノンホモパスチャライズ、非常にいい製品だなあと言う風に思いました。
ただ、製造設備の問題で、色々試行錯誤して対応にちょっと時間がかかってしまいました。パスチャライズも私ども以前から作っておりましたが、どうしても殺菌温度が低い訳ですから細菌が少し残るという事で、日持ちをよくする方法に、色々ありまして、バクトフュージ(遠心分離で細菌を飛ばす処理)をしている所もありますが、私ども、本来のパスチャライズにはそういう負荷はかけたくないと思っております。他にも、最初のごみを取る部分でも、牛乳にダメージを与えるクラリファイヤ―を通さずフィルターだけでやるなど改善をしてきた訳です。色々勉強をさせられたという事であります。 |
|
私どもの乳は非常にいい自慢できる乳質ですし、我々の生産者にとってもせっかく美味しい乳を出荷している訳で、それをUHTの殺菌にしてしまうのは非常に残念だなと言う訳でして、これを機会に私どもとしてもパスチャライズ牛乳が大きな柱となるような取り組みを是非していきたいなと思っております。まだまだノンホモパスチャライズについての知識が不足しているかなと思っておりますが、これから組合の中で勉強しながら製品を大きく育てていきたいなと思っているところであります。
保管温度7℃の問題ですが、公正取引協議会が公正マークの権利を持っている。それが保存温度は10℃しか認めないという事で、うちの方は7℃でも良かったですし、公正マークを付けなかったら7℃でも表示出来るんですけれども、私、鳥取県の公正取引協議会の会長をしておりまして、会長しておるのに公正マーク付けないような製品を作れないという事で、非常に申し訳ないですけど、とりあえず10℃と言う事で。本当を言うと7℃ですとかなり保存期間が伸びます。10℃以上でない訳で、何でそこにこだわるかな?と。多分大手メーカーの力も強いんじゃないかと思います。諦めた訳ではなく、今後また公取とも交渉していきたいと思っております。 |
それから、NON-GMの問題がありまして、遺伝子組換えをしていない餌を使った牛乳を求められた訳であります。確かに遺伝子組換えには問題が多いってのは事実だと思っております。ただ遺伝子組換えしていない餌を探すのは結構大変でしてコストも高くなりますので実現できていませんが、何戸かの農家を限定してNON-GMの餌で搾ったって言う牛乳を作れるような取り組みを考えなければならないという風に思っております。本も読んで勉強もして、非常に遺伝子組み換えの問題を大変な事だなあと思っております。ただこれもTPPなんかでそういった表示がアメリカの圧力で出来なくなる可能性があります。食べ物は美味しくかつ安全性を確保していく事はとても大事な事であります。我々としては、やはり生産効率の問題も考えがちなんですが、勉強しなおして出来るだけ安全な物に近付いていけるようにしていきたいと思っております。 |
酪農家は今ちょっと元気が無いという風に言いましたが、やはり利用して頂く皆さんがあってこその酪農だと思っております。また日本の農地を利用していくという役割も、教育的な効果もありまして、小学生とか中学生の体験学習も喜ばれます。我が国の酪農が無くなってしまうと本当に日本の牛乳も危うい状況になりますし、また農地も本当に利用する人が無くなって荒れ果ててしまう。本当に皆さんに力を頂いて、日本の酪農を頑張っていきたいなと言う風に思っております。その中で特に本物の牛乳といった、こうした皆さんの取り組みが大きな、我が国の酪農を変えるくらいの力になってくれればなあと思っております。一緒に取り組みたいと思いますので今後ともよろしくお願いします。どうもありがとうございました。 |
|
《 質疑応答 》 |
Q.今飲ませて頂いた牛乳、本当にまろやかでおいしい。
温度管理もかなり気をつけて大変だと思いますが?
A.牛乳は大阪のデポを経由し名古屋の冷蔵施設まで7℃以下 で管理されている事を、夏場に何回か温度チェックしております。そこから未来ネットのトラックで4℃とか非常に低い温度管理で運ばれている。保存検査の結果、7℃では軽く2週間以上、長いと18〜19日大丈夫という結果が出ております。今は製造日プラス7日を付けておりますが、7℃以下で管理して頂ければ次のお届け日まで全然問題ない牛乳です。
Q.先ほど後継者が減っているという事でしたが、後継者の決まっている酪農家はどのくらいですか?
A.全体では4割くらいかと。非常に気がかりな事であり、対策として新規参入、酪農家でない方が酪農を出来るような取組みをしていかなければと思っております。
Q.冷凍トラックで配送となっているが、牛乳は凍らないのか?
A.−2℃に設定します。配送中のトラックはドアの開閉が非常に多いので、その位にしておかないと7℃以下は保てないのです。今では4℃〜5℃でお届け出来るよう設定しています。 |
《 ティータイム 》 |
試食のカマンベールチーズ、チェダーチーズ、ゴーダチーズと
シフォンケーキの生クリームホイップ添え
コーヒー、紅茶
和やかな時間でした。 |
|
▲上に戻る |
▲フェスタトップに戻る
|
未来ネットHOME |