『牛乳・乳製品の科学』 |
2013 10/28
ウインク愛知(愛知県産業労働センター)
信州大学教授 大谷 元さん
【プロフィール】
大学院総合工学系研究科。食品中の免疫調節成分の特性付け、食品中の抗アレルギー成分の特性付け等の研究。
日本栄養・食糧学会・日本酪農科学会・日本畜産学会に所属。 |

講師の大谷 元さん |
《 食品成分の役割 》 |
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21世紀の食品成分の役割は、大きく分けて3つあります。1つ目は、生命維持に不可欠な栄養素を食品により補うこと、それを栄養機能と言います。タンパク質、糖質、脂質、ミネラル、ビタミン。これら、食品の5大栄養素のどれが欠けても、病気になって死んでしまいます。生きるための栄養素を供給することが、まず食品に与えられた第一の使命です。 美味しいものを食べたら、「あ〜幸せだな」という気持ちは皆あろうかと思います。五感、味覚、聴覚、触覚等、五つの感覚によって幸せを感じ取ります。満足感の供給は嗜好(感覚)機能といわれ、2つ目の食品成分の機能の一つです。満足感の供給が先行して偏ったものを食べることや、或いは運動をしないことにより生活習慣病に繋がります。
高齢化社会において、健康維持のために、食品栄養成分に目を向ける、これが保健機能、3つ目の食品成分の役割です。 |
《 ミルクの栄養素の特徴 》 |
哺乳類は小さなものから大きなものまで色々ですが、どの動物も成長の一定期間ミルクを主食として成長します。
これは、ミルクの中には3つの機能、栄養素の供給・満足感の供給・健康の維持が備わっていなければならないという事になります。しかし含まれる5大栄養素は同じでも、動物種により、栄養素の濃度、量的にも違いがあります。それは、生まれた時の体重が2倍になるのに要する日数でもわかります。発育盛りにおいて消化吸収性の良いたんぱく質やミネラルをたくさん摂らなくてはいけないという点で、牛乳・乳製品を求めることもあろうかと思います。
《 ミルクの糖質としての食品機能 》
栄養源となる糖質は、成人と乳児では異なり、成人では一般的にご飯やパンの糖質がエネルギー源となります。これはでんぷん(ブドウ糖がいっぱい結合したもの)です。
乳中には天然界(この世の中)で乳の中にしか存在していないという乳糖が含まれますが、ブドウ糖とガラクトースという二つの糖が結合しています。でんぷんも乳糖も一個一個に消化(分解)されてブドウ糖やガラクトースにならないと栄養源になりません。
でんぷんを消化する酵素は、アミラーゼ。乳糖を消化する酵素は、ラクターゼ。アミラーゼは構成酵素と言って、体の構成成分となっています。
即ち、赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいるときに、アミラーゼは既に合成されています。乳糖を栄養源としなくてはならない時にだけ最小限につくられるのが誘導酵素・ラクターゼです。生まれたばかりの赤ちゃんには、ラクターゼはまだありません。
乳糖は分解されて単糖になり、エネルギー源となる栄養機能だけではなく、でんぷんには無い嗜好機能や保健機能も備わっています。 |
保健機能として…
@脊椎動物の骨の為のカルシウムの吸収を促進。
A整腸作用。腸内の乳酸菌が乳糖を栄養源として、増殖し乳酸を作り、乳酸は腸の有害細菌の増殖を抑え、たんぱく質を食べるとできるアミンやアンモニア等の有害物質を腸の中で中和します。乳糖は栄養素として必要最低限の量は、腸の中でラクターゼに分解されますが、多くは残留し、大腸まで到達。大腸菌は乳糖を食べて二酸化炭素と水を作り、二酸化炭素(ガス)は腸管を刺激します。ここでも乳酸菌が乳酸を作り、腸をちくちく刺激し、腸の蠕動運動が活発化して便秘を抑制します。
嗜好機能として…乳糖は、砂糖の甘さの1/6。ブドウ糖の1/5で甘さが控えめです。哺乳動物は栄養素を母親の乳から摂るので栄養素をある一定量を摂らないと発育しません。母動物の乳頭から分泌される乳は液体で、一定量の栄養素を摂るためには、ある程度多く摂る事が必要なのですが、その為には非常に美味しくて甘くて、しかしすぐに飽きるものでは満足感はあっても栄養素は摂れません。ある一定量は甘さを抑えて飽きさせない、必要な栄養素を摂る為に乳の味はここに起因しているのです。 |
《 牛乳・乳製品と健康 》 |
《 ★牛乳・乳製品を摂取すると生活習慣病になりにくい |
厚生労働省は、21世紀における国民の健康づくり、運動における心がけとして、「西欧型食生活の代表である牛乳・乳製品は健康づくりのための重要な食品の一つで、カルシウムに富む食品の摂取量を増加させることをめざす」と言っています。女子栄養大学の研究で、牛乳・乳製品を摂取する人はメタボリックシンドローム、生活習慣病になり難いという論文が、2010年に日本栄養食糧学会という雑誌に掲載されました。
これは、牛乳・乳製品を例えば牛乳で一日100ml以上飲んでいると生活習慣病を予防するというものです。
たとえば、牛乳・乳製品とメタボリックシンドロームの関連。生活習慣病のリスクをどのくらい持っているかということをみたものです。男性女性それぞれで、メタボリックシンドロームのリスクを比較しました。
少ししか(100ml以下)牛乳を飲まなかった人のメタボリックシンドロームのリスクを1(100%)とすると、100ml以上牛乳を飲むと女性では特にリスクが低くなり、60%くらいになり(40%軽減)、男性では80%くらいになります。
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1日牛乳コップ1杯に相当する牛乳・乳製品を摂取する方が、生活習慣病になり難く、女性は100ml以下の人は腹囲76.5cm、100ml以上は74.4cm。女性の場合腹囲は牛乳を飲むほうが1〜2cm程度小さくなり、血圧も117が115に、あるいは300ml以上飲むと114近くまで下がります(グラフ上)。
中性脂肪も下がり、善玉コレステロールは上がります。
このように生活習慣病と関係する因子は、牛乳・乳製品を摂取することによって良くなるのです。
特に100ml以上飲むことが重要で、多いと更に効果が出る場合もあるということを示しています。 |
別の研究結果ですが、女子高生の場合、
牛乳を飲んでいる人の体脂肪率が、
ほとんど飲まない人よりも、100ml以上飲んだ方が明らかに体脂肪率は低いという結果になりました。
なぜ牛乳・乳製品を摂取すると生活習慣病の予防になり、体脂肪率が下がるのかというと、カルシウムの摂取量の増加、ビタミンDの作用で脂肪細胞が脂肪分解を促されることが考えられます。 |
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《 何故牛乳がカルシウム源としてよいのか? 》 |
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一日のカルシウムの所要量は600mg位。小魚のカルシウム吸収効率は30%、野菜は19%、牛乳の吸収効率は40%で野菜の倍。牛乳はコップ1杯200ml(1食分)で、227mg 満たす事が出来ます。日本人に不足している栄養素はカルシウムだけ。実際には1日所要量は600mgと言っていますが、2/3の400mg位は最低必要です。
また、カルシウムは、含有量だけでなく、腸からの吸収率を考えて摂る事が大切なのです。
カルシウムは胃酸によってイオン化して、腸から吸収されやすい形になります。しかし、だんだん(腸へと)下がってくるとリン酸と結合してリン酸カルシウムとなり、水に溶けず沈殿して腸管吸収されません。ここで、牛乳に含まれている乳糖の働きがカルシウムの吸収を促進するのです。
このように中立ちする食品として、最も適しているのは牛乳です。
牛乳は、カルシウム供給源として大変素晴らしい食品なのです。 |
《 骨粗鬆症予防は常に食品からのカルシウム摂取が重要 》 |
カルシウムが不足すれば骨粗鬆症、骨が空洞化し骨折しやすくなります。他にカルシウムの重要な役割に血液凝固があります。それには血液中に2r/dlのカルシウムが必要です。
カルシウムが不足したらどうなるか。食物でカルシウムの摂取量が多い時は骨に蓄えられ、丈夫な骨ができます。カルシウムが血液中に不足しても、骨から血液中に溶け出すので、少々怪我をしても出血で死ぬということはありません。
骨に蓄えられたカルシウムが、血液にすぐに流れ出ないようなしくみを担っているものの一つに、男性ホルモン、女性ホルモンがあります。年をとったら、女性の方が骨粗鬆症や腰が曲がる場合が多いのはなぜか。老化すると男女共に能動的吸収力がダウンすることに変わりありません。しかし、女性は閉経とともにエストロゲン(女性ホルモン)の分泌が減るので、骨からのカルシウムの流出の抑制作用が無くなり、その結果、骨粗鬆症になりやすいのです。 |
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《 牛乳・乳製品は、ビタミンDや必須アミノ酸の宝庫 》 |
牛乳1杯にビタミンDは24.4%が含まれます。ビタミンDの役割は、カルシウム輸送物質を合成する事です。年をとると合成が少なくなるので、ビタミンDを多く含む牛乳は健康との関わりが深いのです。
また、アミノ酸の供給源としても牛乳は良いのです。私たちの体の中のタンパク質は、20種のアミノ酸がそれぞれ固有の順番で結合して、特定のたんぱく質を作っていますが、体の中では作れない8種類の必須アミノ酸を牛乳は含んでいます。
牛乳・乳製品は米食だけでは不足しやすいアミノ酸を補ってくれます。タンパク質には、植物性タンパク質と動物性タンパク質があります。我々の体は動物ですから、我々と同じアミノ酸が多い動物性タンパク質、つまり牛乳を摂ることで、不足しやすいアミノ酸を補えます。血や肉となり、免疫体、感染予防のための物質の合成にも優れています。
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会場の様子。専門的な話で難しい所もありましたが、
熱心にお話を聞く参加者のみなさん。 |
《 質疑応答 》 |
Q 「食事の前に牛乳を飲むと血糖値が上がる」と聞きましたが、それは本当ですか?
A それは無いと思います。食事でデンプンを摂ると、腸でアミラーゼによりブドウ糖に分解され、吸収されると血糖値が上がります。
牛乳を飲むと炭水化物とタンパク質や脂肪が絡み合い、瞬間的に分解されるのを和らげることになります。
Q 「牛乳を飲めば飲むほど、カルシウムが減る」と聞きましたが科学的根拠がありますか?
A ないです。
「牛乳を飲むとがんになる」とか、「牛乳より酵素がいい」と言う人がありますが、科学的根拠は乏しいです。 |
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