【おいしく楽しく学んでフェスタ2019】
 
食と環境の未来ネットの取り扱い品の紹介を兼ね
生産現場のこだわりの品や家庭でできる料理の応用など
賢い消費者になるにはとっておきのイベントです。

 愛知の醸造文化の歴史               
 
      ・ 日東醸造 蜷川洋一社長           

               2019年12月4日 名古屋市東生涯学習センター 
社長蛭川
熱弁をふるう蛭川さん
(日東醸造社長)
私は碧南市からまいりました、日東醸造という白醤油屋でございます。碧南は白醤油という醤油の発祥の町です。
今日皆さんと一緒に仕込みをするのは「しろたまり」ですが、実はしろたまりを始めたのは大分後の話です。白醤油としろたまりは、見た目はそっくりですが、中身は大分違います。そもそも白醤油、しろたまりとは何なのか?皆さんに知って頂いた上で仕込んで頂くと良いので、そういったお話をさせて下さい。
▼全国的に独特な愛知の醸造文化とは?
愛知の醸造文化というのは、全国的にみると非常に変わった醸造文化です。
まず一番変わっているのが味噌です。皆さんにとって、多分普通なのが豆味噌。
味噌は、3種類あって、材料別に米味噌、豆味噌、麦味噌です。米麹と大豆で仕込むのが米味噌で、多分、日本人の7割から8割が米味噌を食べています。豆味噌は全国的には珍しい味噌で、特徴は、お米を一粒も使わないこと。大豆に直接麹を付けるので、豆味噌の原料は大豆と塩だけです。代表的な豆味噌のブランドを八丁味噌といいます。岡崎城から、西へ八丁いった所で、500年位の歴史がある、2軒が並んで八丁味噌を造ってらっしゃいます。八丁さん以外にも、愛知県内には、20軒近くの豆味噌屋さんがあって、この地域で味噌と言ったら豆味噌ですよね。
 豆味噌の兄弟として生まれたのが溜りという醤油なんです。色も真っ黒で、味も濃厚です。なぜ兄弟かというと豆味噌を仕込んだ桶にたまった液体が溜りだからです。知多半島の武豊には「溜り」「豆味噌」って、看板を掲げた蔵が軒を連ねて並んでいます。
皆さんもメインに濃口醤油を使ってらっしゃると思いますが、美味しいんですけれど、お料理に使うと皆真っ黒に色がついてしまいます。特に板前さんが色を付けたくない料理には使えない醤油なんです。で、そういう場合にも使える醤油として、後の時代に生まれてきたのが白醤油という醤油です。200年位の歴史があり、江戸時代の終わりから明治の初めにかけ、私の生まれた碧南市という所で初めて作られました。
例えば、お刺身用の醤油と言ったら溜りなんです。溜りって、お魚の臭みを消すのが上手な醤油で、煮魚とかも、昔は溜りを使って作ったんですよ。
白醤油は茶椀蒸しに使うと、凄く綺麗な茶椀蒸しが出来ます。卵とじうどんとか、天ぷらうどんを注文すると、勝手に白醤油を使った白い汁のうどんが出てきます。白醤油って、出汁の味がすごく引き立つ醤油なんです。そもそも、白醤油って、味がするほど入れません。そこの使い方がちょっと難しくて、一般の方に馴染み難かったんですね。プロの方は、その辺がすごく上手です。
 ▼5種類の醤油の違い
醤油の種類が何種類あるかをご存じですか。JAS法という法律で、醤油は濃口、薄口、溜り、再仕込み、白の5種類と決まっています。
一般スーパーに行かれるとたくさん並んでいますが、この5種類しかないんです。今書いた順番には意味がありまして、たくさん作られている順番です。やっぱり濃口が醤油全体の84%作られています。
味比べプレート
5種のしょうゆと2種の塩
味と色の比較
▼濃口醤油 
一般的には、濃口醤油はキッコーマンのものが圧倒的に売れています。全国的で60%位のシェアを持っていると思います。愛知は地元の醤油屋の強い地域で、キッコーマンのシェアは割と低く、多分半分はないです。あのキッコーマンの味が代表的な濃口醤油だと私は認めたくなくて、あれは関東の濃口醤油の味です。香りが割と強めで、塩味もどちらかというとシャープな感じがします。それに対してちょっと変わった濃口は九州の濃口で、独特の甘い醤油は濃口なんですが、全然違います。普通に醤油を作るとあんなに甘くなる訳はないので、砂糖とか甘草という甘味料やアミノ酸液を入れて後から味を付けているんです。それがいつの頃からか九州の代表的な醤油の味になっているみたいです。全国区でたくさん作られている濃口ですが、地域によってそれぞれ違う味があるとお伝えしたかったんです。
▼薄口醤油
二番目にたくさん作られている薄口醤油は12%位です。濃口に比べると色の薄い醤油で、関西の日本料理に良く使われます。
次に5種類の醤油をもう少し詳しく見ていきます。醤油というと、大豆のイメージが強いんですが、まず濃口醤油の麹を作る時には、大豆と小麦を半分ずつ使います。蒸した大豆と煎って砕いた小麦を混ぜ、そこに種麹というカビを付け、大体3日か4日位かけて室の中で麹にして、出来上がった麹と塩水を合わせて桶に仕込む。一定期間熟成発酵させて、絞って醤油にするのが、濃口醤油の作り方になります。
2番目の薄口醤油の麹の材料は、やっぱり大豆と小麦を半分ずつ使って麹を作るんですが、出来上がった醤油の色の違いは何かというと、二つの理由があります。一つ目の理由が桶に仕込んでいる時間の違いで、薄口?油は半年位で作れます。天然醸造だったら濃口は短くても一年かかります。簡単に言うと長く桶に仕込んでおくと、色は徐々に濃くなります。もう一つの理由は塩分で、色の薄い醤油ほど塩分が高い。わざと塩分を高くして仕込みをするんです。
なぜかと言うと、発酵と腐敗の関係です。人間にとって都合が良くなることを発酵と言います。腐敗と起きている現象は一緒ですが、我々醸造屋は当然腐敗させてはいけないので、発酵させなきゃいけないんです。発酵をコントロールしなきゃいけない、暴走すると腐敗になっちゃうんですね。コントロールというのは発酵に常にブレーキをかけるということで、ブレーキをかけるのが塩です。たくさん入れると強くブレーキがかかり、発酵のスピードが遅くなります。同時に色の進みも遅くなる。わざと塩分高くして仕込みをするのが色の薄い醤油作りなんです。
▼溜り醤油
3番目の溜り醤油は豆味噌の底に溜まった醤油なので、材料が大豆100%というのが基本です。溜り醤油の桶に仕込んでいる時間は長くて、1年では美味しくならないので、2〜3年は仕込むんですね。醤油の中で一番塩分が低いのが溜りで、真っ黒で味も濃厚な醤油ですが、実は塩分は一番低いんです。
4番目の再仕込みしょう油は、2度仕込みをして造る醤油で、もともと、山口県で始まった醤油です。濃口醤油を2度仕込みして作ります。最初普通に濃口を造って、もう一度新しく濃口用の麹を造り、再び仕込む時に濃口と麹を合わせるんです。今は中国地方、山陰も山陽側もあると思いますが、あと小豆島とかあの辺が主な産地です。材料としては濃口と同じで、仕込んでる時間が、濃口の約2倍で3〜4年という長い時間がかかります。塩分としては基本的に濃口と変わらないです。
▼白醤油
 5番目に白醤油です。うちは90年ほど白醤油屋をしていまして、私が三代目です。白醤油の最大の特徴は、材料がほとんど小麦で、極端に色が薄くなる最大の理由です。醤油の色合いは、大豆と小麦の比率で、大豆が多いほど色が濃くなるし、小麦が多いほど薄くなる。熟成期間と塩分も関係してくるので、白醤油の醸造期間は極端に短くて、たったの2〜3か月です。
この白醤油と溜り?油を使い分けることで、いろんなお料理を作っていくというのがこの地方の板前さんで、家庭で白醤油を使われる場面って非常に少ない。家庭では、年末になるとお正月のお節料理に使う為に奥さんが買いに来る、その程度です。
小麦畑
以前は地域に原料があった。
▼かつては地元産の大豆、小麦、塩で造られていた・・・
今から皆さんと一緒に仕込みをするのがしろたまりです。
日東醸造がしろたまりを始めたのは、平成5年で、まだ26年しかたっていません。
きっかけは先代の社長、死んだ私の父親になります。昭和の終わりの頃、先代が仕込み蔵の奥でなんか一人でコソコソやっていまして、「何やってんの?」って聞いたら、「今作っている白醤油は、200年前に碧南で始まった白醤油とはずいぶん変わっちゃったんだ」と言います。何が変わったか聞きますと、「我々地元の味噌、醤油屋は、元々地元産の小麦、大豆を使っていたはずだ」と言うのです。
三河は農業の盛んな地域で、隣町の安城市は私が子どもの頃に「日本のデンマーク」って呼ばれていたんです。一面に田んぼで、麦も作っていたので麦秋の時期になると一面麦畑です。しかし、昭和の終わりにふと気が付くと、みんなアメリカ産です。戦後GHQの政策で、アメリカから大量に穀物が輸入されるようになって、お米だけは日本は守りましたが、他の穀物は圧倒的に輸入が多くなり、自給率は低いです。
▼もう一つ変わったのが塩です。
碧南にも昔塩田があって、この地域の味噌、醤油屋は、当然地元の塩を使っていた筈ですが、昭和46年で一変します。塩業近代化臨時促進法という法律によって、全国から塩田が一斉に廃止され、その代わりに6箇所、巨大な製塩工場が作られて、塩は工場で作るものと政策によって決められたんです。
なんでそんなことしたのか?昭和40年代、要は高度成長期に入って、当時工業原料用の塩の需要がものすごく増えたんです。塩って、人間が食べる量はたかが知れていて、工場で原料として膨大な量を使うんです。その塩を輸入に頼っていると貿易収支が赤字になるので、国産化したいんだけど、塩田でチマチマ作っていると量産できないし、コストも高い。工場で作る塩は大量生産できて、コストも安く、純度も高い。工場ならイオン交換膜を使って海水から塩化ナトリウムを分離するので、簡単に98とか99%の高純度の塩が作れるんですね。
ニガリを含んだ塩は不純物が多いといわれて原料用には向かなかったんです。でも、食べるのには逆なんですよね。だって、99%の塩って、ただしょっぱいだけでしょ。で、今日仕込みに使っていただく「海の精」は、塩化ナトリウム純度は85〜6%くらい。あとは海水中のミネラル分がニガリとして残っています。塩田で作れば当然そうなるんです。その残っているニガリが塩の味を作っているんですね。健康上も、ミネラル分を人間が摂る為に、塩って大事な摂取源だったはずなんです。
▼国産の原料にこだわった『しろたまり』の誕生
先代はもう一度原点に戻そうとし、途中から私が引き継いで、平成5年に『三河しろたまり』という名前で商品として送り出しました。
白醤油から、何を変えたのかというと、原料の小麦、大豆、塩を国産にし、塩田の塩に戻そうという事と、もうひとつ麹と塩水の比率を見直しすることになりました。白醤油は、麹1に対して、塩水が2というのが標準的な比率でしたが、先代は「麹:塩水を1:1にしたい」って言うんです。私は反対したんです。「そんなことしたら、塩水半分しかないので、とれる醤油も半分になっちゃう」、しかし「その分だけ味が濃くなって、おいしくなる筈だ」って言うんですよ。我々白醤油屋は、醤油の旨みが少ないのが一番の悩みの種でした。
色を薄くする工夫をすれば大豆が減ります。大豆ってタンパク質の塊で、麹菌の働きでアミノ酸という旨みに分解されるんです。このアミノ酸がたくさんある醤油ほど、旨みが多いと言われます。ほんのちょっとしか大豆が入ってない、おまけに仕込みの期間も短い。どうしても旨みが少ないんです。で、これを変えることによって少しでも旨みを増やそうとしたんですね。で、結果は、確かに味が濃くなっておいしくなったんですけど、実は見た瞬間にダメで、色が濃いんですよ。
▼次にたった5%だったけど大豆をやめました。
100%小麦麹で、塩水を半分にする。そしたら、最初よりも大豆がない分少し色が薄くなった。「なんとかこれならギリギリいけるかな」というので、スタートしました。
ところが、8年後の平成13年に、農水省から警告を受けることになりました。「三河しろたまりは醤油に該当しないのに、一括表示の名称欄を醤油としているのはJAS法違反である。ただちに改善しなさい」という警告文書が来ました。売れてないから8年間見つからなかったんです。
改善方法は2つです。1つ目は、大きな仕込み桶に大豆一粒持ってきてポーンと入れて、原材料表示のところに「大豆」って文字を入れれば、法律上は何の問題もなくなるんです。
私は醤油屋なので、醤油という表示はやめたくなくて、ごく少量の大豆を入れようかとも思ったのですが、当時使って下さっているお客様にどうしたらよいか手紙を出しました。なんとびっくりで、全員が「名称はどうでもいいから、大豆は入れないで下さい」という内容でした。それ以来、名称を小麦醸造調味料と表示した、『三河しろたまり』になりました。
▼塩は伊豆大島の海の精
先代は職人タイプで物を作るのは大好きですが、売るのがめんどくさいのです。全部丸投げされて私が営業に行くのですが、しろたまりがこれだけ高い値段の理由として、「小麦は地元愛知県産、塩は伊豆大島の海の精です」と説明します。ある時バイヤーさんが「仕込みの水は何だ」と聞かれたので、「水道水です」と答えました。するとそのバイヤーさんが「ふう〜ん」とすごい感じの悪い言い方だったので、初めて水道水に疑問を持ったわけです。

▼仕込み水を求めて足助へ、
常滑に白老という有名な酒を造っている澤田酒造があって、先代の社長にいろいろ教えてもらっていますが、すごく井戸の水を大事にしていて、2kmも離れた山の井戸から水を引いています。酒に使う水は鉄分が少しでもあるとダメで、非常に大事にしている。水道水は塩素で殺菌しているので、リスクは少ないんですけど、我々にとっては逆で、残留塩素があると、麹菌には毒です。
どうしたかと言うと、平成9年、足助町の助役に「美味しい井戸水はないか」と聞くと、香嵐渓より30分山奥の廃校になった小学校の校舎の井戸水が美味しいと言います。
行ってみると、柔らかく非常に美味しかったので、足助の保健所に行って、「仕込みの水に使いたいので食品衛生法の製造許可を下さい」と半年通い、向こうが諦めて、やっと使えることになりました。
水神
大事な水
(日東醸造HPより)
廃校  校舎内の樽
足助の廃校を利用した「しろたまり」づくり(日東醸造HPより)
最初は碧南へ運んで仕込みに使おうと思ったのですが、何回か通ううちにここで仕込みをしようと変わった。標高720m、碧南は10m、標高が700m違うと真夏の温度が全然違う。しろたまりは気温が高いとすぐ色が濃くなるし、仕込み期間が短いので、たくさん仕込んで持っていることができません。年間通じて少しずつ仕込み、できるとすぐ出荷するので、夏場も仕込まなくてはいけない。足助町の保健所や助役に協力頂いて、井戸だけでなく、校舎全部を借りました。
足助は20軒ばかりの小さな集落です。廃校の校舎は一階の壁をぶち抜いて木桶が20本並んでいます。碧南から麹を持ってきて井戸水で仕込み、仕込み終わったら碧南へ持ち帰り、ビン詰めしています。

>取扱い物品 しろたまりページ
 【しろたまりの仕込みワークショップ】

 仕込み原料
 清潔なビンと水、、塩、麹の小麦
 
会場の様子

真剣に取り組む参加者

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